「イザベラ・バードの旅」(宮本常一)を読む
本書は民俗学者で有名な宮本常一さんがイギリス人の旅行者・イザベラ・バードの旅行記を読んで民俗学者としての感想を書いている本になります。イザベラ・バード(1831-1904)は旅行家として中国、朝鮮、東日本、ハワイ等旅行しており、数多くの旅行記を書いています。私は彼女の朝鮮紀行を読んで大変面白かったので、味をしめて彼女の「イザベラ・バードの日本紀行」を読もうと考えたのですが、この本を寄り道して読んでしまうことになりました。
日本各地の風習や庶民の生活を知り尽くしている宮本常一から見てイザベラ・バードの旅行記がどのように映っているか?この二人の視点が混じるとどのような化学反応をおこすかを見てみたいと思いました。
明治初期の頃の貧しい生活も見えるが世界でも希にみる幸せな楽園であった日本
日本に住んでいる我々は気づかないのですが、明治時代の外人からすれば「穀物や果物が豊富で、地上の楽園のごとく、人びとは自由な生活を楽しみ・・」なんて書いています。宮本常一さんも当時のモースやアーネスト・サトウにしても日本のことをべた褒めと言っています。さらに、日本が世界で一番平和であったとも言っており、「ディッケンズの『二都物語』を読んでいると、ロンドンからドーバーまで一人歩きはできない。危険なので馬車に乗らねばならない。馬車には護衛官がついているわけで、それが当時世界で一番平和であるといわれているイギリスの状態なのです。」と書いています。
驚きです。日本人は貧しい生活の面はありますが、平和で楽しい生活を送っていたのがわかります。
これは現在でも田舎に行くと実感できます。田舎の家では鍵をかけずに外出したり、寝たりしています。日本人はだんだん劣化しているのでしょうか?暗くなります。
蚤の大群が日本を覆っていた
嫌な話ですが、蚤が多くいたようです。戦後GHQがDDTを撒いて蚤を撲滅した有名な話があります。それは良かったのですが、DDTは発がん物質を含むので大きな爪痕を残したと思います。
日本の警察官は武士の出身が多い
宮本常一さんも認めているように警察官は武士の出身が多かったのですね。今までそのようなことはほとんど考えたことはありませんでした。戦前では非常に尊敬されていました。今でも私は尊敬しておりますが。
イザベラ・バードは「警官はとても知的で、紳士的な風采の青年である。」と高評価です。海外の警官は賄賂を要求したりしていますが、日本ではそんなことはありません。そこに日本の治安の良さの根本があると思います。
子どもを大切にする国、日本
日本人はイザベラバードから見て子どもを大切にし、家族を大切にする国だったようです。「いかに家が貧しくとも、彼らは、自分の家庭生活を楽しむ、少なくとも子どもが彼らをひきつけている。」と言ってます。昔から日本は家族や子どもを大切にする国だったということのようです。宮本常一も「日本の当時の家庭生活が非常に巧みにつかまれていると思うのです。」と適確に読み込んでいます。
女性の地位
イザベラ・バードはアイヌ人の部落で女性の地位が低かったことをあげていますが、宮本常一さんは「イザベラ・バードがこの地(北海道)を訪れた頃には女は男より一段低く見られており、それは東日本全般の風習だったということは言えると思います。」と言っており、西日本では女性の地位が強かったようです。私は鎌倉時代などの書物を読んで感じる事は女性は結構強く、並み居る男の武士を率いている女主人もいたりします。又、地域により差があるのでしょう。関西なんかでも女性は強く感じたりしますが、どうなんでしょう。
「イザベラ・バードの旅」(宮本常一)は講談社学術文庫から出ています。260ページの小さな本です。今から100数十年前の日本という桃源郷を見せてくれます。当然、悪い面も見えます。そこはじっくりと反省の糧にしていきましょう。